【日本がリードする“持続可能な研削加工”に向けた標準化】NEDOプロで戦略策定から規格発行を実現!

研削加工の自動化における課題を解決する日本のセンサ技術を搭載した自動化研削盤の普及促進を標準化で狙う!

研削加工工程の自動化におけるボトルネックの一つには、回転中の砥石の位置合わせの自動化が挙げられます。特に、マイクロメートルオーダー以上での加工精度を求める際には、位置合わせの精度も求められます。今般、こうした課題を解決しうる技術として株式会社メトロールが開発したエアセンサを用いた回転砥石半径計測システムは、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の“戦略的省エネルギー技術革新プログラム/実用化開発/NC平面研削盤における研削加工の自動化技術の開発”にて、開発が進められました。本開発では、技術開発のみならず、技術が市場に普及するための戦略策定から標準化までが盛り込まれておりました。その一部を弊所が担い、弊所マーケット・クリエイション・戦略コンサルタントの仲上祐斗がプロジェクトリーダーを務めて開発したJSA規格が、JSA-S1014:2023として2023年2月9日に発行されたことをお知らせします。弊所は今後も、日本発の技術が健全な競争のもとで普及拡大するための標準化活動を行います。

標準化は、市場における普及・競争の土台を変革するツールの一つです。普及・競争について、課題を感じたことはありませんか?こうした課題のソリューションとなり得るのが「標準化」です。

プロダクトライフサイクルにおける課題

プロダクトライフサイクルにおける課題

しかし、技術が市場において導入期や成長期といったフェーズのどれにあたるのか、誰が何のために買うソリューションなのかといった、市場環境(エコシステム)によって、標準の在り方(標準戦略)は異なります。

株式会社メトロールは、NEDOプロで技術開発された成果を、市場に実装する際に課題となることを想定した開発項目として、この標準化について、標準の在り方の検討から規格開発の申請までを目標に掲げ、その成果が2023年2月9日にJSA-S1014:2023として実りました。

今般発行されたJSA-S1014

今般発行されたJSA-S1014

戦略的な標準の在り方とは?

標準とはツールです。ツールは使い方次第でその価値が変わります。戦略的な標準とは、実現したいことに対し、複数の選択肢の中から標準で達成したいことを定め、達成したいことに対して標準化された際の影響を考慮した標準を意味します。しっかりとロジックモデルが組み立てられた標準と言い換えると良いかもしれません。加えて、どういった標準化プラットフォームを用いて、誰が誰と標準化を進めるのかといった標準化戦略が必要となります。標準戦略(戦略的な標準の在り方)と標準化戦略はどちらも欠けてはならない関係にあります。

今回策定された規格は「回転砥石半径計測システムの性能試験方法」です。規格では性能を測るための試験方法を定めています。では、JSA-S1014:2023の場合は、どういった戦略的な標準の在り方だったのでしょうか。

まず、センサメーカーである株式会社メトロールは、まだ開発途上である技術が市場に投入され、普及されていくまでの市場環境を分析しました。弊所が設計したワークショップによって、センサの顧客であり当該NEDOプロで共同開発者でもある株式会社岡本工作機械製作所と協働し、砥石の位置合わせの自動化を行う研削盤メーカが当該センサを採用し、研削盤ユーザにおいてもその価値が理解され適切に利用されることが、実現したいことであると抽出したのです。

つぎに、弊所の整理における課題1「新商品が市場に普及しづらい」、課題2「市場に不信感を持たれてしまう」に該当する課題の設定です。しかし、ユーザにおける適切とは、ユーザによって異なります。そこで、ユーザも自身が求める性能かどうかを評価しやすくすることも必要だと判明しました。この結果、性能試験方法を規定することが案として挙がり、結果として、これは課題3「他社との違いが理解されない」にも対応するソリューションでもあったため、戦略的な標準の在り方として採用されました。

標準戦略に基づく規格開発とは?
①規格案の策定

標準戦略が策定されても実行力が伴わなければ効果を発揮しません。標準化では、合意形成された規格文書を基にしたルールが普及されることで実行力が伴います。認証制度を用いてルールに沿った製品・サービスかを可視化することも、規格文書を基にしたルールの普及方法の一つです。つまり、どういった文書が誰と合意形成され、その文書がどのように使われるかが重要です。

まず、標準戦略を策定した主体は、標準戦略に基づく規格案を策定し、合意形成に臨みます。もちろん合意形成の結果、規格案の中身が変わることもあります。しかし、すべての中身が変わっては、目的を達成できなくなることも考えられます。そこで、目的を達成するために、譲れない内容と譲れる内容、誰とどういった規格開発プラットフォームで規格化を進めるかという規格化戦略も必要になります。この規格化戦略の策定には、どういった規格にするかという規格骨格づくりが重要です。ただし、骨格だけだとイメージが湧きづらい側面があるため、実際には文章も作成して検討することが多いです。

今般のNEDOプロでは、2021年度に標準の在り方を検討した株式会社メトロールと株式会社岡本工作機械製作所が主体となって規格骨格と規格案の開発を行いました。その結果として表れているのが、以下のJSA-S1014:2023のタイトル、適用範囲及び章立てになります。2021年度時点の規格案からは、タイトル、適用範囲及び章立てについて、一言一句同じではなく、一部については規定事項から解説に変更していますが、大枠では変更なしと言えます。規格化戦略が上手くいった事例と言えるでしょう。

【タイトル】

回転砥石半径計測システムの性能試験方法

【適用範囲】

このJSA規格は、工作機械に組み込まれた回転砥石半径計測システム(以下,計測システムという。)の性能試験方法について規定する。
このJSA規格は、工作機械に組み込まれた回転砥石半径計測システムに適用する。なお、工作機械自体の性能試験方法は、このJSA規格では規定していない。

【章立て】

  • 1 適用範囲
  • 2 引用規格
  • 3 用語及び定義
  • 4 一般事項
  • 4.1 計測性能及び試験の不確実性の発生源
  • 4.2 計測開始前の据付け
  • 4.3 試験に使用する計測器
  • 4.4 計測開始前の機械の幾何制度
  • 5 計測システム
  • 6 計測システムの性能試験方法
  • 6.1 性能試験手順
  • 6.2 結果の解析
  • 6.3 性能試験に関する記録
  • 附属書A(参考)回転砥石半径計測システムの性能試験結果を用いた加工原点位置決めシステム
  • 附属書B(参考)回転砥石半径計測システムの導入検討に係る評価方法
  • 附属書C(参考)砥石面検出用エアセンサ単体での出荷時検査解説
  • 解説

標準戦略に基づく規格開発とは?
②規格開発プラットフォームでの規格化

規格案は、規格文書の素ではありますが、規格文書ではありません。規格の開発は、今般のNEDOプロで活用したJSA規格のように、規格開発プラットフォームを用いることが効果的です。なぜなら、規格文書は、ただ仲間内で合意形成を行い、公開したとしても、規格文書を基にしたルールの普及に繋がらないためです。普及したい対象に届くように、信頼性の高い規格開発プラットフォームを選択するのも、規格化戦略の一つです。もちろん、○○工業会など業界内で集まってルール形成を行うのも有力な選択肢です。

今般のNEDOプロでは、2022年度に株式会社メトロール及び弊所がJSA規格での開発を応募し、開発主体を担う規格開発グループで規格化までを行いました。公益社団法⼈ 砥粒加⼯学会の会長も務めた向井良平氏には委員長に就いていただきました。株式会社メトロールからは、NEDOプロの開発責任者である菅野隆行氏、株式会社メトロールの共同開発者でもありセンサメーカからすると顧客でもある株式会社岡本工作機械製作所から西上和宏氏、研削加工に関するアカデミアとして山田高三氏、当該システムのユーザとして株式会社メトロールから松橋卓司氏が委員に就き、規格の執筆及び規格開発の責任者としての役職であるプロジェクトリーダーを弊所の仲上祐斗が務め、JSA規格のスキームオーナーとしてテクニカルプログラムマネージャーを一般財団法人日本規格協会の本池祥子氏に務めていただきました。

JSA規格開発グループ構成表

JSA規格開発グループ構成表

第1回の委員会では、2021年度に策定された規格案及びその目的意識や標準化によって実現したいことについて、議論を行いました。その後、各委員のご意見や修正指摘を踏まえ、規格案として文書を整えるとともに、委員の合意形成を経て、JSA規格開発におけるパブリックコメントを実施しました。パブリックコメントは、自由に規格案を見られる形でJSA規格の規格開発プラットフォームのオーナーである(一財)日本規格協会のHP上で公開し、意見を募るものであり、その意見を反映することができます。

こうしたプロセスを経て規格案がJSA規格開発グループとして完成した後に、(一財)日本規格協会による様式調整や校閲と審査を経て2023年2月9日にJSA-S1014:2023 “回転砥石半径計測システムの性能試験方法”として制定されました。

もちろん、規格が制定されたことがゴールではなく、規格が活用され、砥石の位置合わせの自動化を行う研削盤メーカが当該センサを採用し、研削盤ユーザにおいてもその価値が理解され適切に利用される、という実現したいことが達成されることがゴールとなります。弊所は今後も、今般のように、日本発の技術が健全な競争のもとで普及拡大するための標準化活動を行います。

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